デラクルスは本当に悪役か?/リメンバー・ミー(評論/感想/レビュー)

ピクサー最新作は、家族愛を謳った感動作として評判だ。

特にクライマックスで主人公のミゲルが歌う場面は分かっていても涙を流してしまう。

一方で死者の国で先祖から許しを得る展開に象徴されるように、家族のつながりを強く打ち出した作品性は、それが呪いのような印象を与えてしまう危険性もある。

だがこの作品がさらにすごいのは家族愛を打ち出しておきながら、父殺しも描いていることだ。

 
ミゲルは死者の国で、「リメンバー・ミー」で知られる偉大なミュージシャン、エラネスト・デラクルスを身寄りのないヘクターと共に探す。

ミゲルの一家は「音楽禁止」が掟のため、ミゲルがミュージシャンになるという夢を叶えるためには、高祖父のデラクルスに許しをもらう必要があるからだ。

しかし名曲「リメンバー・ミー」には秘密があった。実はデラクルスの曲ではなく、ミゲルの真の高祖父であるヘクターが娘のために作った曲だったのだ。

デラクルスは、ヘクターを毒殺し、曲を奪って成功したことが明かされる。 


「何が何でもチャンスをつかめ!」というデラクルスは、トランプ大統領に象徴されるような偉大なアメリカの暗黒面そのものだろう。

しかしデラクルスがいなければ「リメンバー・ミー」が知られることはなかったし、ミゲルがミュージシャンに憧れることもなかったのだ。 

製作者側が断罪しているわけではないことは、デラクルス自身が出演した映画で、友を殺した場面を再現していることからもわかる。

デラクルスもわかってはいるのだと。 


そしてエンドロールの最後。

「時を超えて私たちを支え、力を与えてくれる人々を決して忘れない」というメッセージとともに写真が画面いっぱいに映し出される。

「力を与えてくれる人」は家族だけではない。

ミゲルは死者の国という通過儀礼で、憧れていたデラクルスという父殺しを果たした。

彼のように他人を蹴落とし、成功だけを追い求める時代は終わった。

しかし彼もまたミゲルにとって力を与えてくれた人であったことは間違いない。

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