隠れた名作かつまらない駄作か?『トキワ荘の青春』

隠れた名作かつまらない駄作か?『トキワ荘の青春』

名だたる漫画家たちが若手時代に住んでいたトキワ荘。その様子は「まんが道」などで描かれています。トキワ荘の兄貴分であった寺田ヒロオを主人公に青春の日々を描いた映画『トキワ荘の青春』。デジタルリマスター版が作られ映画監督たちから支持を受ける隠れた名作という評価の一方、ネットではつまらないというワードが散見されます。U-NEXTの配信で見たのでその感想/レビューです。

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まんが道を期待するとつまらない……?

引用:https://movies.yahoo.co.jp/movie/152813/

結論から言うと「期待していたものと違った……」でした。期待していたものとは「まんが道」です。

僕は最近まんが道を読破しましたが、めちゃくちゃ面白いです。もはや慣用句のように使われているほど知名度がある漫画ですが、決して読みやすい状況ではないと思います(自分は図書館で文庫版を読んだ)

ですが絶対に読んだ方がいいです!自分が読んだ漫画の中で生涯ベスト10には確実に入ります。めちゃくちゃキラキラしていて最高に面白いです!(僕はあすなろ編が一番好きです)

とまぁ「まんが道」の話をしてしまいましたが、その実写版とも言えるのが『トキワ荘の青春』です。

しかもキャストは超豪華。本木雅弘(寺田ヒロオ)、古田新太(森安直哉)、生瀬勝久(鈴木伸一)、阿部サダヲ(藤本弘/藤子・F・不二雄)といった今をときめく面々が現在ほど売れてなかった時に出演したこちらもある意味トキワ荘的な映画です。(もっくんはもちろん有名でしたが)

コメディが期待できるキャスティングで、まんが道の内容を知っていれば、これはとんでもなく面白い映画なのでは?と期待しますが、正直肩透かしくらいました。

この映画はトキワ荘の持つ地場のエネルギーや若い漫画家たちの情熱と漫画自体の黎明期がクロスオーバーした熱き青春物語ではなく、そんな時代からドロップアウトしてしまった漫画家たちを優しく見つめる映画だったのです。


簡単に言えば「まんが道」が陽なら「トキワ荘の青春」は陰です。陰の陰です。

カメラも引きでフィックス中心。なおかつ冒頭は当時の写真が出てきて、音楽も戦後のような音楽が多用されるのでかなり辛気くさいです。

四畳半に身を寄せ合って「新漫画党」が結成されるシーンもしれーっとしていました。



宴会のシーンなのに、みんなしみじみ飲み過ぎです。Youtubeに寺さんの最後のトキワ荘同窓会の映像があがっていますが、これですら映画版よりもっとわいわいしてる様子が伝わります。

満賀道雄(藤子不二雄A)と寺田ヒロオ。主人公で作品のトーンが違うんじゃないかと思うかもしれませんが、「まんが道」の寺さんはもっと活気があってまさにトキワ荘の兄貴分!というような魅力溢れるキャラです。

一方で本作の寺さんは純粋で優しくて人の良い寺さん。もっくんも伊右衛門のようなキャラで演じています。

僕は本物の寺さんのこと全く知りませんけど、もっくんの寺さんを見て「こんなん寺さんじゃない……」と思ってしまいました。

この作品は冒頭のテロップにあるようにあくまで”フィクション”です。(まんが道もそうだけど)

これは市川準監督の描きたかったトキワ荘の物語。もっと言えば時代から溢れてしまった人たちを描きたいというテーマのもと、その象徴としてトキワ荘や寺さんがいるという感じです。



もっくんがデジタルリマスター版の際のインタビューでそのように語っていて腑に落ちました



実は名だたる映画監督が絶賛の隠れた名作

引用:https://eiga.com/movie/38133/special/

まんが道を期待すると微妙な感じがしますが、単体の映画として見ると、これはこれでありなのかもしれません。

まずトキワ荘の再現度がすごいです。現在トキワ荘は「トキワ荘マンガミュージアム」として中に入れますが、この映画の時は取り壊されていたので当然セットです。


ですが急勾配の階段や廊下、部屋の再現度はトキワ荘マンガミュージアムと遜色なくいかに再現度が高いか分かります


また出版社の外観や喫茶エデン、松葉の出前、編集者がトキワ荘に来ている様子はすごくリアリティがあって当時はこんな感じだったんだとうなと感じさせます。

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廊下を撮り忘れてました!沖田修一監督も言っていますが、トキワ荘の廊下を引きで撮ってるショットは素晴らしいです。(ちなみにマンガミュージアム含めトキワ荘関連の施設のスタッフの人は、おそらく地元の方がやってるのかみなさん親切でした)

他にも映画.comにリマスターの際の特集が載っていますが犬童一心、成島出、岩井俊二、大根仁といった名だたる監督が絶賛のコメントを寄せています



沖田修一監督もフェイバリットの青春映画の中の一本として本作をあげていますが、確かに今で言えば沖田監督っぽい作風かもしれません。



「伊集院光の週末TSUTAYAに行ってこれ借りよう!」では、バカリズムの升野さんが本作を推薦していました



分かりやすいコメディシーンはあまりないんですが、桃井かおりがぼそっと「みんな(ベレー帽)被らないといけない決まりあるの?」とかクスッとできるシーンは多々あります。



これは解釈の違いかもしれない

引用:https://maskedrider-ryo.hatenablog.com/entry/2014/05/24/133536

監督たちが絶賛するのも分かりますが、それでもやっぱりもっと熱をもって描いて欲しかった

また同じことを言います。僕は寺さんのことを全く知りませんが、やっぱりこんなのは寺さんじゃない……


この映画では優しすぎてドロップアウトしたかのような描き方で、もちろんその要素も本人にありますが、寺さんのエピソードから考えるに「頑固でそうしたくてもそうできなかった人」だと僕は思います。



現代で言えば自分の相撲道の理想が高すぎてこだわりが強すぎて、相撲協会を追われた貴乃花みたいなキャラだと思います。(ちなみに自分は色々あるとはいえ貴乃花は現役時代から好きです)

あとはこの映画での描かれ方以上に、寺田ヒロオは一時期は人気漫画家であったはずです。

あしたのジョーの文庫版の解説ではスポーツライターの玉木正之さんが、子供の頃にリアリティがあるスポーツ漫画で印象に残っているものとして「スポーツマン金太郎」をあげていました。



この映画の主役は実質三人で寺さんと森安直哉(古田新太)、赤塚不二夫(大森嘉之)の三人です。

周りの漫画家が成功を掴もうとする中でうまくいかない三人がメインで描かれます。

赤塚不二夫がギャグ作家として売れっ子になる前下積みが他の人より長かったというのは有名は話ですね。映画ではきっかけを掴んで上昇する作家として描かれます。



大森嘉之さんは「青春デンデケデケデケ」の寺の息子役といい、こちらでも素晴らしい演技です



森安直哉は「まんが道」ではキャバキャバと笑うことで有名な人ですね

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引用:https://www.yamagiwa2000.com/blog/?p=13053

このシーンは人が壊れる瞬間を描いていて漫画なのに本気でゾッとしつつ、面白いというまんが道の名場面のひとつですね。


森安直哉は結局芽が出ず、トキワ荘から出ていきます。



この時も詩とともに「トキワ荘で過ごした日々は夢のようだった」という感じで(映画的に)良い感じに出て行きますが、映画内ではトキワ荘での日常が夢のようには見えないからなぁ


そして寺さんも最後にトキワ荘を出て行ったところで映画は終わります。



やはり基本的には寺さんがどういう人なのかよく分からないというのが、一番の不満ポイントですかね



他のキャラクターもまんが道の前情報がなければ、もっとよく分からなかったと思います


藤子不二雄の2人が手塚治虫を訪ねてきて、寺さんの世話になって一緒に寝るところまでいくモンタージュとか面白いシーンはありますが、本作だけ見て意味わかるのな?と思うシーンもありました


色々書きましたがが、静謐で繊細な移ろいをじっくり描いた映画ということで見れば、もっと楽しめると思います



U-NEXTやAmazonプライムでレンタルしたら見れますので、気になる方は是非見てみてください


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