宮崎駿最新作「君たちはどう生きるか」の原作?「失われたものたちの本」との比較レビュー(ネタバレ有)

宮崎駿最新作「君たちはどう生きるか」の原作?「失われたものたちの本」との比較レビュー(ネタバレ有)

宮崎駿監督最新作の「君たちはどう生きるか」が公開されて賛否両論巻き起こしています。(僕の周りは割と賛の人が多い印象)僕ももう2回見てきましたが、あと5回ぐらい全然見れます。でも意味が分からないところもたくさんあって、どうしても「あのキャラは〜だろう」とメタ的な見方で楽しむ面が強いのですが、(自分もそう)その原作というか宮崎駿にインスピレーションを与えた本と言われている「失われたものたちの本」と絡めた感想は少ない気がするのでそこに絞って書きます。「失われたものたちの本」もめちゃくちゃ面白いのでぜひ読んで欲しいです(ネタバレ有るので映画見てから見てください)

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そもそも「失われたものたちの本」は「君たちはどう生きるか」の原作なのか

「ジブリの文学」(鈴木敏夫,岩波書店,2017)や最近出た「スタジオジブリ物語」(鈴木敏夫,集英社,2023)にも書かれていましたが、宮崎さんが鈴木さんに「読んでみてほしい」と渡したのが、明言はされてませんが「失われたものたちの本」と言われています。

「アイルランド人が書いた児童文学」「宮崎駿が推薦文を書いている」ということからこの本が関係しているのではと言われています。

そこで「刺激を受けたけど原作にはしない。オリジナルで作る。そして、舞台は日本にする」とされており、これが「君たちはどう生きるか」になっています。ちなみにが多いんですが「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎)は劇中にも登場しますが、原作ではなくタイトルを借りてきた本です。



精神性やそれが意味するところはもちろん大きいのですが、直接的なリファレンスという意味では「失われたものたちの本」が大きいでしょう。

「失われたものたちの本」と同じところ

「失われたものたちの本」から引っ張ってきてるのは一番は設定です。

失われたものたちの本の舞台は第二次対戦下のイギリスです。あらすじは本が好きな少年デイヴィッドは母親を亡くし(病気で)、それがきっかけで父親との関係がぎくしゃくしてするというのも同じです


「君たち」の場合、これが第二次大戦下の日本になっています。そして母親が亡くなり(火事で)父親がすぐに再婚し、再婚相手に子供ができるというのも同じです。


またストーリー的にもサギ男(「失われた〜」ではねじくれ男/トリックスター/カササギ)が「死んだ母親に会えるよ」と異界へと誘い込むのも同じです


「失われたものたちの本」からアレンジしているところ

「失われた〜」の場合、弟が生まれます。赤ちゃんなので仕方ないのですが、弟は幼稚でむかつくし、弟に付きっきりの継母との関係もうまくいかない。



デイヴィッドからするとみんな死んだ母親のことなど忘れ、自分は構ってもらえず不満がたまるわけです。


「君たち〜」の場合は、弟は最後に出てくるだけでした。

また大きいのは「失われた〜」では母親とは関係ない人と結婚するのが「君たち〜」では母親の妹と結婚し、しかも妹は母親と瓜二つということです


これによって母親の二面性であったり、外見は同じだけど中身は違うので、眞人が継母を受け入れられないこと、父親が死んだ母親をすぐに手に入れるという意味でエディプスコンプレックスの面が強化されていました


「失われた〜」も訳者の田内志文さんがあとがきで書かれているようにエディプスコンプレックスが非常に濃厚な話です。映画では眞人が内面を話すわけではないので読み取る必要がありますが、父親と今の現実にうんざりしてることが重要な要素でしょう

デイヴィッドと眞人の共通点

デイヴィッドも眞人も母親が死んでからの現実が嫌という点と継母を受け入れていないこと、父親への複雑な思いが共通しています。


眞人はすごく礼儀正しくてしっかりした少年に一見見えますが、継母(夏子)に心を開いていないのがわかるシーンがあります。


屋敷に連れてこられ階段を登っている時に夏子が「あそこにお父さんの工場があるのよ」と上から差し示すシーンがあります。


眞人は振り向きはしますが、カメラは固定されたまま。普通であれば工場がある視線の先に(右)にパンするはずです。


異世界に行ってから同じようなカットがあります。その時はちゃんと右にパンするのです。


ここが象徴するように眞人は夏子の言うことを聞いてはいて、あからさまに無視するといったことはしませんが対して興味を持っていないことがわかります。


逆に夏子側も眞人が屋敷につき、寝ているところを意味深な顔で見つめていました。異世界に行ってからの展開を考えると眞人に対して良い思いを抱いているわけではないことが分かります。

また父親の描写が「君たち〜」はかなり面白いです。見てて男らしさや権力を誇示しようとする姿勢にあまり良い印象は持たないと思いますが、それが見た目でも表現されてると思います。

当代きっての色男木村拓哉が声優をしているのでバイアスがかかりますが、父親は胴長短足に描かれてると思います。眞人が頭を怪我した時に車で急いで帰ってきますが、そこもちょっと滑稽に描かれてるような気がします

でも父親が風防を家に並べる時に、眞人は「美しいですね」と言う。この辺りはもろに宮崎駿の体験からきているはずですが、このあたりから父親もただ嫌な感じではなくなってきます(多分等身も)


眞人が夏子を探す動機を聞かれると「父親が好きな人」と説明するのも「俺は好きじゃないけどね」という気持ちと「でも父親のために来ているんだ」という眞人にとって父親の大きさも示すセリフになっているかと。


簡単にいうと定番である「生きて帰りし物語」です。宮崎駿で言えば「千と千尋」のような違う世界に迷い込んでしまい、最後には帰ってきます。



このデイヴィッドの迷い込んだ世界というのが面白いです。「失われたものたちの本」というタイトルですが、今世界中で親しまれている童話などが今の形になるまでに「失われた」別パターンの話のキャラクターがいるような世界です。



例えば白雪姫が出てくるんですが、とんでもない悪女として描かれています。なんせ小人たちは白雪姫を殺そうとして失敗したという話が出てくるほどです。


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「失われたものたちの本」で描かれるあっちの世界

「君たち〜」も見てて分かりますが、明確にあの世というか魂のいきつく世界が描かれています。



「失われた〜」だと明確に言及されているのですが、主人公が迷い込むのは「失われたものたち」の世界なのです。今の流行りでいうとマルチバースの世界が描かれます。



例えばデイヴィッドが冒険していると白雪姫の小人たちに出会います。でも小人たちは白雪姫の殺害を企てて、その罪のために白雪姫の世話をしています。




これだけ聞くとぎょっとするかもしれませんが、この世界に出てくる白雪姫は本当にとんでもなく残酷なやつなんです笑



そこは是非「失われたものたちの本」を読んで、どれだけ最悪なのか見てほしいんですが。




このようにいわゆる一般的に知られている世界とは違う話が「失われた〜」の中には出てきます。




「失われた〜」では本編の次にシンデレラ(Aバージョン)も収録されていますが、ものすごくユーモアたっぷりに「本当は怖いグリム童話」のようなテンションでシンデレラが描かれます。




そのようなものが「失われたものたちの」世界なのです。



そして「失われた〜」では冒険を終えたデイヴィッドが元の世界に戻るのですが、そこで出会った木こりとまた会えるか?というくだりがあります。



物語の最後、主人公のデイヴィッドが成長しておじいちゃんになるまでが描かれます。
そして再び「失われたものたち」の世界に行き、再会するのです。




「君たち〜」の大おじはもちろん色んなイメージが重ねられてると思いますが、主人公の成長した姿という見方もできるかもしれません。(こういうのをなんというんだ?永劫回帰?)




ちなみに「君たち〜」の屋敷に奉公人でおばあちゃんたちが出てきますが、あれは白雪姫の小人がモチーフでしょう。そしてそれは「失われたものたちの本」からの刺激だと思います。

「失われたものたちの本」と「君たちはどう生きるか」の決定的な違い

結局ですね、簡単に言うと(めんどくさくなってきた)異世界に行ってから(映画の後半部分)は思いっきり違います。でも流れは何となく似ています。

映画のサギ男とは最終的に友達になりますが、「失われた〜」ではサギ男にあたるねじくれ男がラスボスです。

ねじくれ男はデイヴィッドに「こっちに来たら母親とまた会えて、元の生活(母親が生きていた頃)に戻れる」とあちらの世界に誘います。



あちらの世界では王様がいるのですが、その王様はかつて失踪したと言われている大おじでした。この辺は同じですね。そして主人公が後継者になってくれと言われ、拒否するのも同じです。

「失われた〜」のねじくれ男が何故デイヴィッドを誘惑したかというと寿命が欲しいからです。


ねじくれ男はデイヴィッドのような心が不安定な男の子を見つけてきて、王様にさせてやると言います。そのかわりに一番消したい人物(「失われた〜」では新しく生まれた弟)の名前を言わせて、その人物の寿命をもらうことで永遠に生きてるやつなんです


だから大おじはかつてのデイヴィッドなのです。妹を消したいと思っていて、その名前を言ってしまったことで見せかけの王様にはなれたけど、永遠にその世界に閉じ込められてしまったのでした。


「君たち〜」では2回見ても大おじ近辺がよく分からなかったのですが、「失われた〜」ではこの辺はとても読み応えがあって面白いです

結局「失われたものたちの本」は原作なのか

急にまとめに入りますが、「失われたものたちの本」を読むと「君たちはどう生きるのか」が理解できるかと言えばそんなことはないと思います。

何故ならあっちの世界に行ってからは全然違うからです。

話としてはシンプルに「行きて帰りし物語」ですし、原作の要素(エディプスコンプレックスなど)も映画では描かれています。補助線にはなるかなと思います。

ジブリが原作表記する時ってタイトルもそのまま持ってきている時ですね(「魔女の宅急便」「耳をすませば」「コクリコ坂から」「ゲド戦記」)

それでもご存知の通り、内容はかなり改変するので今回はタイトルも変えているし設定や展開は下敷きにしているけれど原作とはしなかったのではないかと思います。

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宮崎駿が映画化するために書かれたかのような「失われたものたちの本」

この本を読んでいて思ったのは、とにかくイメージの描写がすごいということです。文章を読んでいてこれを宮崎駿が映像化したらこんな感じかなというイメージが浮かんできました。(「君たち〜」にはあまり出てこないけど)


更に宮崎駿の永遠のテーマである「少年の悲劇性」がテーマになっている作品でなおかつ、最後には救いというかそれこそあの世とこの世が描かれることになるんです。この死のイメージも宮崎駿らしい題材です。

「君たち〜」は正直分かりにくい話だと思いますが、「失われたものたちの本」は非常に分かりやすく物語としての構造を持っているし、めちゃくちゃ面白い本なので是非読んでみてください。児童文学だからか文章もとても読みやすくすぐに読めますよ

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