伝説のシューズを誕生させた負け犬チーム、一発逆転の実話/映画「AIR/エア」

伝説のシューズを誕生させた負け犬チーム、一発逆転の実話/映画「AIR/エア」

ベン・アフレック監督最新作の「AIR/エア」の感想です。最初に言うと今年暫定ベストぐらい面白かったです。お仕事ものとしての面白さ、実話ものとしての面白さ、映画としてよくできてる面白さといった色んな面白さがある映画です。割と人を選ばず楽しめる作品だと思うので、気になる人は劇場にGO!

それでは以下は基本的にネタバレ有でレビューしていきます。

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「AIR /エア」のあらすじ。脚本がキレキレ!

引用:https://eiga.com/movie/99032/


映画は1984年の資料映像のモンタージュから始まります。冒頭は時代設定。そして主人公ソニー・ヴァッカロ(マット・デイモン)のキャラが描かれます。それはギャンブラーということ。しかもオールイン(全賭け)して負けてトボトボ帰ってきます。

1984年、ソニーはナイキのCEOフィル・ナイト(ベン・アフレック)からバスケットボール部門の立て直しを命じられます。


有望な新人3人と契約する目星をつけていますが、ナイキは予算があまりないため上位のドラフト選手とは契約できない。ただ他の選手でソニーのお眼鏡にかなう選手はなかなかいません。




ソニーは元々高校生のオールスターゲームのようなものを立ち上げるなど現場出身。誰と契約するかでも現場で揉めていて厄介者扱いです。



そんな中、ソニーはある選手に目をつけます。それがマイケル・ジョーダンです。ジョーダンがノースカロイナ大時代に全国大会のトーナメント戦(NCAA)で優勝を決めたウィニングショットの映像を繰り返し見ます。その映像を見て、マイケル・ジョーダンという選手に全ベットすることを決めます。


個人的に誰かが誰かに対して憧憬の念を抱くシーンや見出すシーンがめちゃくちゃ好きです。(例えば「リメンバー・ミー」のミゲルがデラクルスの映像を見るシーンとか)


これもその一つで、この時点ではスターでも何でもない新人の選手にきらめきを見出し、全ベットすることに決めたソニーが感動的です。



しかも実際にマイケル・ジョーダンは伝説の選手になっていくんだから尚更すごいというかソニーの慧眼がすさまじい!劇中のセリフでも「マイケル・ジョーダンという名がNBAそのものよりも大きくなる」みたいなのがありましたが、まさにその通りになっていくんだから……



ただしここからソニーはまず社内を説得していかないといけません。3選手分の予算をまとめて1人に突っ込むためです。ジョーダンはそもそも全体のドラフト3位の選手でそもそもナイキの契約リストの対象外だし、コンビニ?のバスケ好きな店員もあのウィニング・ショットを決めてなかったらもっとドラフト順位は低かったろうというような世評でした。

そんなジョーダン1人だけに賭けるのは、当然リスクがあります。失敗したらバスケ部門閉鎖レベルです。でもアディダス、コンバースに次いでバスケシューズ業界では3位のナイキが一発逆転するにはジョーダンに賭けるしかないとソニーは思うわけです。ハイリスクハイリターン


しかも社内でGOが出てもジョーダン本人が契約してくれないと全て水の泡です。さらにジョーダンの第一希望はアディダスでナイキだけとは契約したくないと言ってる始末……。



脚本はアレックス・コンヴェリー。30歳だそうですが、クレジットはまだこの「AIR/エア」だけ。でもとんでもなく脚本がキレキレで才能がありまくりです。基本的にソニーの周りは敵対するキャラしかいません。



何か進めたい時には、社内でも社外でも対立関係が作られていて非常に見やすいし、面白い。よく脚本は葛藤とか言いますが、それが息を吐くようにできていました。しかも観客的には圧倒的にソニーが正しいという史実が分かっているので応援しやすくもなっています。


セリフや会話のバトルも面白く、実際にあった企業の内幕ものというところからもアーロン・ソーキンを彷彿とさせるレベルでとてもすごかったです。おそらく次回作もベン・アフレックとマット・デイモンと組んでアンソニー・ロブレス(片足の学生レスリング全米王者)の脚本をするみたいです。(多分)



あとは笑えるシーンも多かったですね。電話でキレまくるところとかちゃんと打ち合わせしてたのに不自然に全部説明しちゃうフィル・ナイト(ベン・アフレック)とか


脚本最大の見せ場はやはりソニーがジョーダンに向けてアドリブでスピーチをするシーンでしょう。ここは見た人には言わずもがなですが、キング牧師のスピーチのエピソードがフリになっているし、マイケル・ジョーダンが実際に経験する栄光も悲劇もインサートされるので、とてもグッとくるシーンです。

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「AIR/エア」のキャスト

引用:https://www.nytimes.com/2023/04/04/movies/air-movie-review.html


キャストもみな素晴らしい演技を見せています。マット・デイモン、ベン・アフレックは言わずもがなですがジェイソン・ベイトマンやクリス・タッカーも素晴らしい。特にクリス・タッカーは特性を活かした明るいキャラでありつつ良い演技でした。

あとはマイケル・ジョーダンの母親を演じたヴィオラ・デイヴィスの肝っ玉母ちゃんっぷりは圧巻でした。

ヴィオラ・デイヴィスはジョーダン本人が希望したそうで、ヴィオラ・デイヴィスじゃなければ映画が実現しなかったかもしれないそうです。


あとはマイケル・ジョーダンは誰が演じたのかも気になるかもしれませんが、ここの処理も非常にうまかったでうすね。顔は映さずに後ろ姿とかだけなんです。


しかもそれが不自然じゃないし、ジョーダンの文字通り神様っぷりが強調されていてうまいと思いました。



「AIR/エア」は監督ベン・アフレックの最高傑作では?

引用:https://slate.com/culture/2023/04/air-movie-ben-affleck-matt-damon-sonny-vaccaro.html


ベン・アフレックは「AIR」も含めてこれまで5作品監督して「アルゴ」ではアカデミー作品賞までとってますが、個人的には批評的にも失敗作とされてる「夜に生きる」含めて全部面白いと思います。その中でも「AIR」は一番面白いんじゃないかと思います。



作風も関係してるかもしれませんね。基本的には地元のボストンの暗い面も含めた愛憎入り混じった地元愛みたいな作品が多いですが、この作品は誰が見ても楽しめるお仕事エンタメですし。

撮影監督は「夜に生きる」でも組んだ名匠ロバート・リチャードソン。カメラも動きまくってて好みでした。会話劇が多いので、さもすると画的にはつまらなくなってしまう可能性もありますが、全然そんなことはなかったです。


例えば冒頭でソニー(マット・デイモン)とハワード・ホワイト(クリス・タッカー)が部屋で会話してるシーンがありますが、部屋の外から撮った映像と中からの映像をうまく合わせてましたし。



めっちゃ普通に撮ったらデスクを挟んで会話だけでも成立するシーンですし、マット・デイモンとクリス・タッカーなので画的には持つと思いますが、



ソニーはミニバスケをひたすらし続けて、ボールを取っては投げを繰り返していたので、動きも出していました。こういうとこも基本的かもしれませんが、うまいなぁーと思って見てました。



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伝説のシューズを作ったチームも「AIR」のスタッフも超一流!これぞアメリカ映画

引用:https://www.fullress.com/nike-air-movie/

「エア・ジョーダン1」のデザイナー、ピーター・ムーアのアーティストっぷりも良かったし、見終わるとやっぱりソニーを筆頭にしたナイキのチームすごかったなとなります。チームで成功を掴んだところも面白ポイントでした。



もしかしたらビジネス的にこの映画が語られるかもしれませんが、あんまり参考になるところはないかもしれません(笑)というか結びつけても全部結果論じゃないかな。賭けに勝ったという話だし、セリフでもありましたが、実際ジョーダンが初日に大怪我してたらもう終わってたわけで。ただこのチームがすごかったのは紛れもない事実です。



またその奇跡を映画化した「AIR/エア」のスタッフもまた素晴らしい超一流の仕事でした。脚本、撮影、編集そして役者。全てのレベルがめちゃくちゃ高かったです。それをまとめたベン・アフレック。僕が「AIR/エア」を激推しするのは「映画」という製品としてめちゃくちゃ良くできてるからです。


しかも本作がすごいのは何回も言ってるけど実話ってことなんです。それらを全て凌駕するマイケル・ジョーダンという神の存在。


またいわゆるこれぞアメリカ映画だなというのも良かった。最後まで驚くツイストがありますが、それも黒人の歴史も踏まえると歴史的な意義が非常に大きいことだったことがわかります。


サントラはシンディ・ローパーの「タイム・アフター・タイム」や「Born in the USA」といった大ネタも使われますし。「ボーン・イン・ザ・USA」は歌詞の内容が分かった上であえての使われ方がしてますし


そういったところもいい意味で間口の広い誰でも楽しめるエンタメ作品になってました!



関連作としてはNetflixのマイケル・ジョーダンのドキュメンタリー「マイケル・ジョーダン:ラストダンス」や同じく「アート・オブ・デザイン」のティンカー・ハットフィールドの回があります。(ティンカー・ハットフィールドはエア・ジョーダン1の後の話で、デザインに不満を持ってたジョーダンにナイキが契約を切られそうになるみたいな感じです)



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