ブラッドリー・クーパーがとにかくすごい映画です。数年前までは酔っ払って記憶を無くし、ガラの悪いアライグマだった人だとは思えません。ブラッドリー・クーパーは監督と主演で巨匠レナード・バーンスタインを演じています。
監督としてのブラッドリー・クーパー
前半バーンスタインが音楽界で一躍名を轟かせるシークエンスだけでもブラッドリー・クーパーの監督としての力量が輝く。代役として指揮者に抜擢されたバーンスタインが寝室から一気にホールまで駆け抜けていくのをカメラが俯瞰で一緒に走るように駆け抜け躍動します。
一夜にして名声を得たスピード感や新鮮な喜びが表現されています。またニューヨークを題したミュージカルを舞台上で行い、最後は摩天楼を表現して終わるカットのつなぎで、同じように摩天楼に見立てたバーンスタインの足裏へとつなぐカット、うますぎかよ……。
また夫婦の会話シーンが多い映画ながら画角が変わったり、時には長回しを使ったり、ロケーションや場面が工夫されていたりとバリエーション多く、緩急を使って映画として見応えがあります。
個人的には夫婦の長回しの口論の後に、スヌーピーのバルーンが窓から見えてくる緩急が好きでした。(「花とアリス」にもアトムのバルーンの似たようなシーンがあるけど、大元ネタはなんだろう?)
役者としてのブラッドリー・クーパー
役者としてのブラッドリー・クーパーは更に凄みを増します。
特にマーラーの「復活」を指揮する場面は本作の白眉です。
作曲者としてのバーンスタインの業績は実際の音楽を流せば良いものの、指揮となると本人が演じなければ表現できません。それを見事に体現。
更に人当たりは良くテンションが高いパーソナルな部分も演じ切っていました。キャリー・マリガンも、娘役のマヤ・サーマン=ホークも素晴らしい。
答えは出ない映画
ただ冒頭に提示される字幕にあるように問いと緊張感を描く映画のため、なかなか最後までバーンスタインがどういう人物だったのかは分かりませんでした。
同性の若者とも関係を持つバーンスタインに対して、妻はバーンスタインに対してフェリシアは複雑な思いを抱いているのも分かる、バーンスタインも複雑なパーソナルながら魅力的なのもわかる。
でもそれらはこの映画を見てから、もっと言うなら見る前から予想できる範囲で、この映画を経て何を突き刺したいのかは分かりづらかったです。
それこそこの夫婦にしかこの夫婦のことは分からないのかもしれません。でも確かにバーンスタインはフェリシアを愛していたことは伝わりました。
「マエストロ その音楽と愛と」★★★(Netflixで配信中)
あらすじ
「マエストロ:その音楽と愛と」は、レナード・バーンスタインとフェリシア・モンテアレグレ・コーン・バーンスタインがともに歩んだ生涯をたどる、大胆で情熱的な、類まれなる愛の物語。
監督
:ブラッドリー・クーパー
脚本
:ブラッドリー・クーパー、ジョシュ・シンガー
出演
::キャリー・マリガン、ブラッドリー・クーパー、マット・ボマー、マヤ・ホーク、 サラ・シルバーマン、ジョシュ・ハミルトン、スコット・エリス