ウェス・アンダーソンも意外と苦労してる!/「ウェス・アンダーソン 旅する優雅な空想家」を読んだ感想!

ウェス・アンダーソンも意外と苦労してる!/「ウェス・アンダーソン 旅する優雅な空想家」を読んだ感想!
引用:https://www.timeout.jp/tokyo/ja/news/a-wes-anderson-designed-train-carriage-in-the-uk-101521
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イアン・ネイサン著/島内哲朗訳「ウェス・アンダーソン 旅する優雅な空想家」はデビュー作『アンソニーのハッピー・モーテル』から最新作『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』までのウェス・アンダーソンのフィルモグラフィー10本を解説した本だ。

ウェス・アンダーソンと言えば、作風も本人もスマートで、キュートで、今では映画に映るもの全てをコントロールできる立場にいる作家という印象。だがそこに至るまでの過程は結構苦労していて、特にキャリア初期のエピソードがめちゃくちゃ面白かった。

そもそもウェス・アンダーソンは子供時代、いわゆる「問題児」だったそうで、若きウェス・アンダーソンが家に帰ってきたら冷蔵庫の上に「感情的にこじらせた子供の対処法」というパンフレットが置かれていたという。

このエピソードやタイトルもめちゃくちゃウェスアンダーソンの映画に出てきそうな感じで笑えるのだが、自分の人生がそのまま映画に反映されるタイプの作家であるウェスはこのような逸話に事欠かない。(憧れの映画批評家ポーリン・ケイルに『天才マックスの世界』(1998)を見てもらった時のエピソードもウェス映画的な顛末になる)

特にデビュー作の『アンソニーのハッピー・モーテル』(1996)の章が面白い。本人的には「過去最高」の出来だと思ったが、全面的に編集をやり直せと言われ直している間に、サンダンス映画祭からコメディ映画はもういらないと拒否され、ソニーの役員からは面と向かって期待してないと言われ、テスト試写もソニー史上最悪の評価だったという。

それでも映画の神はウェスを救った。ウェスにとって大恩人は「ブロードキャストニュース」の監督で知られるジェームズ・L・ブルックス、そしてスコセッシということも分かった。

最近亡くなったジェームズ・カーンも恩人といえるだろう。ジェームズ・カーンが出演するから(知名度のある俳優が出演するから)デビュー作は撮れたらしい。

でもジェームズ・カーンは少々扱いづらくて、夜中にヘッドロックをかまされた話も出てくる笑。

「ゴッドファーザー」のソニーの影がちらつき、ビビって怖かったというのも面白かった。(ジェームズ・カーンの役は当初はビル・マーレイを希望していたが、脚本すら読んでもらえなかったとか)

『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001)のジーン・ハックマンとギクシャクしていたことや、それよりも『ライフ・アクアティック』(2004)の大海原の方が遥かに苦労したなど、ウェス・アンダーソンも意外と苦労しているんだなというところが読み応えがあった。

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予算も必ずしも潤沢ではなく、結構後期の作品でも役者のギャラのレートは組合が定めた最低賃金で出演している役者が多いらしい(もちろんウェス・アンダーソン作品に出演できる栄誉からだが)

ちなみにウェス・アンダーソン作品といえば、ダメな父親が登場するのがお馴染みだが、実の父親は決してそのようなタイプではなく、ウェスの生涯のトラウマ(生涯のモチーフ)になったのは両親の離婚だという。

『天才マックスの世界』で心を掴み、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』でヒットを飛ばしたウェス・アンダーソンにとって『ライフ・アクアティック』(予算は過去最高)『ダージリン急行』は振り返ればキャリアの低迷期だった。

転機になったのは『ファンタスティックMr.FOX』(2009)。

Vコンテを作るなど以後の作り方も変えたし、キャリア的には沈んでいるこの時期に、ストップモーションアニメを作ったウェス・アンダーソンのすごさや非凡さが分かる。

カンヌに呼ばれたのだって実は次作の『ムーンライズ・キングダム』(2012)が初だった!(これを読むと、ムーンライズキングダムって結構重要作なのではと思えてくる)

非常に面白い本ではあったのだが、『犬ヶ島』(2018)の文化盗用に関するところは、はっきり間違っていて残念。



ウェスを擁護したいためだろうが、イアン・ネイサンは「(ウェスが影響を受けた)黒澤明だって、アメリカの西部劇の影響を受けていて文化盗用は考え始めるとキリがない」みたいなことを書いていたけど、

文化盗用って社会的に立場が上のものが、マイノリティの文化を「盗む」のが問題なはず。(だから黒人のロックンロールを白人のマーティが発祥であるかのように盗むのが問題(BTTF))

芸術は互いに影響を受け合っているとかいう単純な話ではない。個人的には別に『犬ヶ島』は文化盗用だとは思わないし、何ならウェス・アンダーソンで一番好きな作品かもしれない。ただイアン・ネイサンはこんな基本的なことも分からないで文化盗用について語ってるのが残念だった。

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でもそれぞれの作品毎に制作時のエピソードや公開後の評価のされ方、映画の批評、解説も載っていて、何よりウェス・アンダーソンがここまで来るのに色々頑張ってきたことが知れて面白い本だった。

1本でもウェス・アンダーソンで好きな作品がある人は読んで損はない本だ。



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